ジョルノ@神奈川・著
『
小さな君へ
今日、君はこの世に生まれた。
私は今、例えようの無い幸せを感じている。
この想いを忘れないように。
生まれたばかりの君に、手紙を書こうと思う。
君が生まれて、私には守るべき大切なものが、またひとつ増えた。
君の誕生は、私をまたひとつ、大人にしてくれた。
君はこれから、どんな人生を送るのだろう。
どんな出会いをし、どんな大人になってゆくのだろう。
私は、何があっても君の味方でいようと思う。
どんな時も、君を見守っているよ。
この手紙を、君が目にする時。
君が幸せでありますように。
生まれて来てくれてありがとう。
父より
』
親父の書斎を整理していると、一通の手紙が出てきた。
それは、生まれたばかりの私へ宛てたものだった。
親父は今朝。息を引き取った。
厳しく、仕事人間の父だったが、晩年は病を患い、闘病生活を送った。
私が学生の頃は、親父と衝突することも多く、親子関係は決してよい方ではなかった。
親父の言うことはいつも正しかった。
分かっていながら、私は素直にそれを聞き入れることが出来なかった。
自然と実家からは足が遠のき、親父とは距離を置いていた。
病に倒れてからの親父は、弱音を吐くわけでもなく、最期まで闘い続けた。
私はただ、時間の許す限り、親父のそばにいた。
だんだん小さくなっていく親父の姿を、ずっと見守り続けた。
皮肉なことに、親父が病に倒れてからの数ヶ月間が、一番共に過ごす時間が長かった。
その時間を与えてもらえただけ、私たち家族は幸せだったのかもしれない。
あれだけ苦しんだ親父だったが、亡くなった時の顔は、それは安らかなものだった。
「少し休んだ方がいいわよ。」
書斎から出てこない私を気遣って、妻が声をかけた。
「あぁ、ありがとう。君も休んだ方がいい。」
妻は、大事そうにお腹をさすりながら、少し微笑んで、扉を閉めた。
彼女のお腹の中には、新しい生命が宿っている。
親父には、生きていて欲しかった。
まだ、沢山聞きたいことがあったんだ。
親父は幸せだったのだろうか?
私は親父に、何をしてあげられのだろう。
親父からの手紙を読みながら、初めて涙が出た。
溜まっていた想いが、一気に溢れ出した。
少なくとも、この手紙を書いた時の親父は、幸せだったのだと思うと、
ほんの少し救われた気がした。
私ももうすぐ父親になる。
ひとつの生命が消え、新たな生命が生み出される。
これまで、幾度と無く繰り返されたように。
これからも時は、そうして続いていく。
そうして繋がっている。