上田 由紀子・著


僕達二人の生活はこの部屋から始まる。

いや、じきに三人になる。二人きりなのは、今だけ。

まだ準備は始まったばかりだけど、一番最初に買ったものがベビーベッドだなんて気が早すぎる。

二人とも気に入ったから、売り切れないうちにと衝動買いしてしまった。

生まれるのは、いつなのか言ってたかな。

また大切なことを忘れてるって怒られるな、きっと。

どっちに似ているだろう。

女の子だったら、誰も近づかせない。

男の子だったら、一緒にサッカーをしたり、カブトムシを捕まえに行こう。

どうか無事に生まれますように。



-署長室-

呼び出しておいてこれだ。

通達を読んでおけってことなんだろうけど、言いたいことがあれば面と向かって言えばいいのに。

無言の圧力ということか?

警察官が犯罪関係者と結婚できないのはわかってる。

それでも僕は洋子さんと結婚する。

たとえ警察官を辞めることになっても、その決意は変わらない。

だから今日は制服を着ないで、こうして呼ばれているのに。

署長も本当はわかっているんだ。
彼女の両親は、悪い人達ではないってことを。

先祖代々受け継いできた島の土地が、いつの間にか見知らぬ開発業者の手に渡り、大規模な工事が始まる。

島の人達が納得いかないのは当然だ。

署長だって元々は島の人間だから、内心では島を守りたいに決まっている。

だが、世の中には法律がある。

僕らはその法律により、守られている。

正式に土地の売買契約が成立し、法にそって開発計画が進めば、それを止めることは通常できないだろう。

開発業者の手に渡った土地に住み続けることはできない。

彼女の両親は先祖から受け継いだ土地を守りたかっただけ。

だからといって、工事現場事務所を爆破するなんてこと、やっていいわけない。

怪我人がいなかったから、よかったものの、ひとつ間違えば大惨事だ。

人がいないのを確認して仕掛けたのだろうが



いくら待っても、いっこうに署長は現れない。

所有権だ、占有権だと紙に書かれた法律をかざしても島の人達には通用しない。

土と汗、太陽に恵みの雨、風、そして海そういったものが、彼らのすべて、命なんだ。

決して紙きれ一枚で済むことじゃない。