misa.jane・著

 

『影法師と嘲笑い』

 

 

あめあめ、ふれふれ、母さんが、

蛇の目でおむかえうれしいな

 

ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、

らん、らん、らん

 

 

 

 

 

「て、あ……。やんじゃったね、雨」

 

 

でも良いじゃないか。

今はまだ、こうして傘をさしていたいのさ。

 

雨上がりの妖精は、泥水の水溜りの水面を跳ねた。

アンブレラダンス。

 

 

「ねえねえ、知ってた?ここって、生命の舞踏会場」

 

「そうなの?」

 

「だって、ご覧よ。ここにはみんなが集まっているだろう」

 

「みんなって?」

 

「みんなって、みんなだよ。木も、水も、土も、虫も、草も、花も、鉄も、コンクリートも。ほら、鳥だっているだろう」

 

「本当だね」

 

 

ビニール傘の低い天井を透かして見上げれば、木々たちが葉を交差させていて、それはまるで緑色の網タイツのように見えて、可笑しかった。

 

そして、その網タイツの隙間から、白い日の光が降り注いでいた。

 

雨上がりの湿った空気の中に、鳥たちの乾いた美声が響いている。

 

雨の滴をビーズみたいに飾り付けて、そこのある生命は皆輝いていた。

 

風に乗って、踊っている。

 

 

「こういう瞬間を、ぼくは美しいと思うよ」

 

「こんな美しい世界が、いつまでもどこまでも続けばいいのにね」

 

「それこそまさに、世界平和だよ!」

 

「世界平和!」

 

「世界中のみんなにこの光景を、見せてあげたいね!」

 

 

 

 

『ぷっ』

 

 

 

 

突然、どこかから小さな笑い声が聞こえてきた。

 

 

「あ!誰だ?今笑ったのは?」

 

 

振り返り目についたのは、錆びて茶褐色になった金網のごみ箱だ。

 

しかも、ごみがたっぷりと溢れている。

 

 

『……フフフ…』

 

 

その笑い声は、確かにそのごみ箱から聞こえてきた。

 

 

「やっぱり、お前か!やいやい、人を笑いやがって!」

 

『あんまり笑わせないでおくれ、坊や。可笑しすぎるぜ!』

 

「何がだよ?」

 

『世界平和?甘ったれだな、本当に。そんなこと、簡単に口にするもんじゃね  えぜ』

 

「何でだよ?何がいけないんだよ?」

 

『あのな、坊や。よく考えて見れば分かる事だ。

世界中の全ての人が平和に幸せに暮らせるなんてことは、不可能なんだよ。

世の中を良く見てみろ。

この世にはあまりにも不純な人間がたくさんいすぎる。

奴らは人の気持ちなんて、知ったこっちちゃないんだ。

どんなに他人が苦しんでいようとも、自分さえ幸せなら、それで満足。

逆に、自分の満足がいかなかったら、他人をどんなに傷つけてでも、自分の欲望を満たそうとするんだ。

そんな人間がうじゃうじゃいる世界で、何が世界平和だ?

無理に決まっている…』

 

「…そんな…。でも、その分良い人だってたくさんいるだろう?」

 

『だが、そいつらは弱い。

腐った奴らを叩きのめす勇気と力を持っていないんだ。

現に俺を見てみろ。どうだ?

腐った奴らは、俺にちゃんとごみが入ろうとも、入らなくとも、気にしねえ。しかも良い奴がそんなごみを見た所で、一体何をする?

別に何もしたりはしねえんだ。

結局は他人事。

俺はお陰で、こんな醜い姿になっちまった…』

 

「………」

 

『なあ、坊や。分かるだろう?

この世界だっていつか、俺みたいに汚れきっちまうよ。

今の世の中は、腐っている』

 

「そんな世界は、嫌だよ」

 

『だけど俺たちには、止められねえ。

人間は、自分の欲望を満たすために生きる獣だ』

 

 

 

「じゃあ、なんでぼくらは生きているの?」

 

 

 

 

 

『それを見つめるだけだ…。いつか奴らも気付くだろう。己の醜さに』

 

 

 

 

 

 

この世はぼくが思っていたものと違って、あまりにも矛盾だらけであった。

 

さっきまで美しく映っていた世界が、色褪せて見える。

 

だけどそれが現実ならば、受け入れなければならないのだろう。

 

 

「あ。また降りそうだね…」

 

 

空にはまた、黒い大きな雲が覆いかぶさり、ぼくの上に大きな影法師を作った。

 

 

 

 

 

あめあめ、ふれふれ、母さんが、

蛇の目でおむかえうれしいな

 

 

 

 

 

この雨が、この世界の汚れを洗い流してくれればいいのに……。

 

 

 

 

 

ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、

らん、らん、らん

 

 

 

 

 

そして妖精は、軽やかなステップで姿を眩ます。