天の羊・著

 

『雨音』

朝から大地に雨が降り注いでいた。
ふと「雨」とは何だろうと気になった。辞書には「広い範囲にわたり、空から降ってくる水滴」とあった。でも、その水滴の正体が一体何なのか疑問に思った。地球の涙なのか、生命への恵の水なのか、ヒトが造り出した汚染物質なのか
洪水のように流れてくる情報量が多すぎてボクには分からなかった。分からないから、疑心暗鬼になってしまう。
生命維持には欠かせない水。でも、雨は別物だ。矛盾しているのかもしれない。
ボクの存在が溶けて消えてしまいそうなほど透明で、何にでも浸透して、変化させてしまいそうだ。だから、ボクは傘をさす。

最近、ある公園のことが気になっていた。雨の日、誰もいない公園から不思議な物音がすると言う奇妙なウワサがあった。ウワサであって、事実とは異なるかもしれない。ボクは確かめたいと思った。
誰もいない午後の公園。ウテナに上り、傘を掲げて周囲を見渡した。
「誰かいるの?」
返事はない。でも、微かに小さな小さな聴いたことのない音がした。
何か分からないその存在を知りたいボクは、ジッと待つことにした。
サーッと雨音がするだけで、辺りにはヒトの気配はなく、人工的な無機質で違和感や威圧感のある音は弾き出されていた。
時折、木々から落ちる大きな雫がポツッボトッと傘を揺らした。最初は驚いたが、慣れると、面白い。
上空には高速で形状をめまぐるしく変化させる綿毛のような雲、木々の葉や草花を揺らしながらそよぐ風、大小に進化する鉛色に輝く水溜まり、見ていて飽きない。
いつの間にか感覚が研ぎ澄まされ、自然と一体になっている気がした。解け合って融合しているようにも思えた。
何を言っているのか分からないが、木々や草花の囁きや笑い声がしているような気がした。それはとてもとても小さくて、集中していないとうまく聴き取れない。
「目に見えるもの、聴こえるもの、感じるものが全てではないんだ」
何かがボクに言った。
ボクは瞳を閉じ、耳をすます。
今まで見たことも、聴いたこともない世界がひろがっていた。歌うように、踊るように、流れるように、弾けるように、揺れるように、躍動する生命の息吹の輝きや美しさを感じた。正確にはイメージが見えたと言ったらいいのだろうか。
頭の中に映像が浮かび上がり、映画を観ているみたいだった。
自分もその空間を浮遊したり、回遊したりして、夢をみている感じがした。
また突然何かが言った。
「感じるココロ、想像することが大切なんだ。忘れていけないのは、みんなそれぞれに違うからステキなんだ」
目を開けると、目の前に色とりどりのゴミが籠に入っていた。雨に濡れたゴミは、艶っぽく、煌めいて、とても美しいオブジェに見えた。
「ボクはボクでいいんだ。雨に濡れても消えたりしない。大丈夫」
ボクは傘を閉じた。
ボクの輝ける場所へ向かおう。ボクの存在を誰かに知ってもらいたい、見つけてもらいたいと思っていたけど、自分から飛んで行こう。ボクの新しい場所へ。ボクは自由なんだ。どこへでも行ける。

地球に住む生命が向き合い、会話することができたら、どうなるのだろう。
ボクはキミたちを探す。キミと話がしたいんだ。ボクとキミはこの世界で繋っていて、離れられない存在だから。
「ボクも地球の一部なんだ」
なんだか嬉しくなった。