しほ・著

 

「ねえママ。・・・あのおにいちゃん、何してるの?」

「ん?どのおにいちゃん?」

「ほら。雨降ってないのに、傘差してる あかとしろのおにいちゃん。

・・・あのおにいちゃん、毎日いるよ。・・・ほんとだよ。ゆかりちゃん、学校の帰りにみんなで帰るときいつもみるもん。」

「うーん・・・ゆかりちゃん、あっちのブランコへいこっか。そこでお話してあげる。」

「うん、ブランコ。」

ブランコはちょうど、あいています。

ぎーい ぎーい ぎーい

ママは、ゆかりちゃんに、少しずつはなしました。 あのおにいちゃんとママは、むかあし、一緒の学校にかよっていたんだって。

そして。

「あのね。ほら、あの白いたてもの、みえるかな?」

ママは公園の向かいのおおきなたてものをまぶしそうに指差す。

「・・・うん。」

「その、三階の、一番右の・・・白いレースのカーテンの窓・・・みえるかな?」

「うん、みえるよ。あと、なんか、黒い棒がたくさあん ささってる・・・マドに。」

「あのおへやにね、あのおにいちゃんの、おともだちがいるの。」

「おともだち?」

「そうよ。あのおにいちゃんの、だいじな、おともだち。」

「ふうーーーん・・・おともだちなら、いっしょに、あそべば いいのに。・・・・あ、そうか。けんかしちゃったのかな。だからおにいちゃん、おともだちにあやまろうと思って待ってるんだ。」

「うーん・・・それがね・・・おともだちは、おはなしが、できないのね。」

ママはブランコ揺らす手、ちょうちょがとまるみたいに ゆっくりとめました。

「ずうっとまえに、あのおにいちゃんと、その、女の子のおともだちが一緒に遊んでいたころ、とってもとっても かなしいことがあって。女の子は、それ以来、わらうことやおはなしすることもできなくなっちゃったの。

おにいちゃんは、女の子と、とても仲がよかったから、毎日おはなしをしに あのお部屋にいっていたのよ。」

「それで、それで?そのおんなのこ、おしゃべりできるようになったの?」

「残念だけど、その子はまだ そのまま なの。」

「ふうぅーん・・・・かわいそうだ、ね・・・」

「そうよ。おいしいものをたべても 素敵なお洋服を着ても、かわいいお人形をあげても、だめなの。・・・・

でもね。ひとつだけ。女の子が今でも好きなものがあってね。」

「えーっ、なあに、なあに?女の子の好きなものなあに?」

「それはね。女の子の、今はもういないパパとママがくれた、外国のおみやげの。。。かわいい男の子のお人形。

それをみたときだけ、女の子はいつも昔みたいに笑うことができるんだって。」

「そうかあ・・・」

「そうなの。・・・・そのお人形さんと、あのおにいちゃんは、そっくりおんなじ服を着ているの。毎日、おにいちゃんは、いつかまどから女の子が姿を見つけてくれないか、わらいかけてくれないか、って、ずっと待っているのよ。」

「そう、なん、だ・・・

おにいちゃん、かわいそう・・・」

「・・そうね。早く女の子、見つけて笑ってくれるといいね。」

 

。。。ぎ、ぎーい ぎーい ぎーい・・・

ぶらんこはまた ゆれだしました。

 

「・・・ゆかりちゃん、おてつだいする。」

 

ゆかりちゃんは、ぴょん、と

ブランコから降りて、ちっちゃなこぶしを、まるでドラえもんの手みたいにまあるく にぎりしめました。

「おにいちゃんに、フレーフレー、する。」

「そっか・・・そうだね・・・」

ママも そのとおりだと思いました。

「そうだね。うん、そうしよう。

せー、の。」

 

フレー フレー お・に・い・ちゃん

がんばれ がんばれ お・に・い・ちゃん

 

ゆかりちゃんとママは、大きな声でせいえんをしました。

みんなみているけど、そおんなの 気にしない。

じぶんが、いいとおもったことは、だれにもじゃま、させない。

 

・・・すると

そのおにいちゃんは

ゆかりちゃんたちの姿を

その透明な傘の下からみつけて

あたまの上の おぼうし はずし ちょこっと笑って

ぺこりと おじぎをしましたとさ。